潮目
石川和広

わざわざ心に波を立てて詩を書くのはどうか
どうか

波は不思議な力で打ち寄せるもので
波がない時は、ない
海を見るものはもっとよく知っているだろう
ぼくの目の前には、海は現にない
ぼくの後ろに海がある
かもしれない
から

今日、森山直太朗の「さくら」を
精神科デイケアで、人一倍大きくうたった
桜は緑にかわっている
少し気になることはあっても
それほど波立たず
二本、電話をかける(一本は不通、一本は父親の声)

死者の目と病者の目が
お別れを告げに来ない日がある
そう思うとふと告げに来る
不安
まだ、ここにいられるのか
いつづけるのか
タバコをふかして、そう思う
もちろん老後のことではない
決して、まっすぐには立てていないし
疲れは、すぐにやってくるが
最近のぼくは奇妙に明るい
奇妙である
前より寝覚めがよく

まっすぐではないが、斜にもかまえていない
波はうずまいて
いい天気が暮れてゆくと
そこには救急車の音
四月の終わり
しつこいぐらい
ベランダに止まりにくる鳩

充分ではないが平和であり
充分ではないが破壊が進行している

ぼくらが悪魔の目にみつめられ、ねじくれる日が
いつ来ないといえようか


自由詩 潮目 Copyright 石川和広 2006-05-03 18:42:58
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