【ハーメルンの笛】
石畑由紀子

地元の人間にさえほとんど知られていない裏路地の
石畳の階段を降りきったところに
さびれた骨董屋があって
そこでは【地下鉄の黒鏡】やら
【合わせ鏡の13番目】やら
【白紙五線譜のオルゴール】やらが並んでいる
噂を聞きつけた収集家が時々
頬を紅潮させてやってくるが
お前には扱いきれないからやめておけ、と
店主はうつむきながらあご髭をなでるだけだ
そんな彼は夜な夜なガラスケースから
【ハーメルンの笛】をとり出し
小さくきれぎれの音でドレミファを吹いている
店主は決めているのだ
いつかこの笛をなめらかに吹きこなす唇の主が
この店に偶然現れたら
無垢で罪深いこの街の子供たちを根こそぎ連れ去ってくれと
主の意志に関わらず
報奨金を出すつもりでいる





自由詩 【ハーメルンの笛】 Copyright 石畑由紀子 2004-02-12 02:26:38
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