霜天

長い髪を引かれた後に、残していった重さ
開いては閉じて、を繰り返す手のひらに
理由を隠す隙間なんて、どこにもないことに気付く


もうここにはないもの

空をかき混ぜた手
海から斜めに伸びていく街には
また風車が増えたらしい
空をかき混ぜた、手
響く音の深さを、海に届く明かりを
行方は誰にも分からないし
行き着いた先に住む人が
笑顔でいるらしい、ことを
知らなくても


知りたいことよりも
知らなきゃいけないことよりも
知ることが出来ないことの方が

旅先で道に迷った御守りが
頼るものもなくただ、揺れているのを
見なかったことにして
見えなかったことにして
気付かなかった、ことに
渡しそこねた後姿は
何度ここを通っただろう
海から斜めに伸びていく街には
強いだけの風が吹いて
いつでも、潮の香りがする
包まれたことは何度もあっても
その中までは、いつも見えない


そして、途方もない

知らないものばかりが降ってきて
動けなくなる道の途中
クラクションが鳴り響いても
何もかもが素通りしていく
空をかき混ぜた手を
どこに仕舞ってしまったのか
糸電話の、震える
その脆さと
確実性
たくさんの声に聞き返して
もう一度そこで
風車の響く
音を聞きたい



いつも
いつも



鼓動の進む足音の分だけ
それがそれであることに気付かされる
通り過ぎた後の
いつものこと


自由詩Copyright 霜天 2006-04-30 01:24:29
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