『僕がギターを抱いていた理由』
川村 透

 彼女のステージを見た、僕がいる
 彼女のステージに居た、僕がいる

 僕はギターを抱いていた。

 濁った目の天使
 君は熱に浮かされて、ステージの袖に立ち
 蒼い肩から白い腕を覗かせる。
 僕はギターを抱いていた。
 盲目の白い少女は、濁った色に頬をほてらせる、あの日のアルビノのように。
 見えない、けれど、聞こえる、モノに
 打たれ、
 君はもう一度だけ、泣きたくなった?
 僕はギターを抱いていた
 僕はギターごと君を抱いていた。
 春の空気はフルートさえも湿らせるのか
 陽炎のように立ちすくむ無言の楽団
 僕はギターごと、君を抱きしめていた。
 汗は流しても、涙を見せる程の
 出来事じゃない。
 ステージを後にすると、ただ、山積みのハードボイルドが待ちかまえている
 だけ。



 裸の彼女を見た、<僕>がいる
 裸の彼女と居た、<僕>がいる

 <僕>は、彼女を抱いていた。

 濁った目の、天使
 閉じた目は、真摯
 乳房に、<僕>がまさぐられているんだ。
 火炎を、<君>が焼き尽くしているんだ。
 濁った目のまま、<うた>の両肩に導かれ、でも、おぼつかなくて
 蒼い肩から白い腕を覗かせる。
 ギターに、<君>も抱きしめられたままなんだ。
 <僕>は、彼女を抱いていた。
 <僕>は、彼女ごとギターを抱きしめていた。


 --------春の空気はフルートさえも湿らせるのか
 --------陽炎のように立ちすくむ無言の楽団


 君は、ギターごと僕を抱きしめていた。
 見えない、けれど、答える、コエは
 ふるえても、
 生まれたての仔馬が立ち上がるように、もう君の目は乾き始めている
 汗は流しても、涙を見せる程の
 出来事じゃない。


 <ステージ>を、後にするとただ、
 山積みのハードボイルドが待ちかまえているんだね。

 <ステージ>を、後にするとただ、山積みのハードボイルドが待ちかまえて
 いるんだね。



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Alice-ful Guitar/Albino


【初出】
2002/01/14 ver 1.17 →「ぺんてか」かわいいひと、追加編
2002/02/08 ver 1.18 →FCVERSE Mes(1) 赤の部屋
2004/02/11 ver 1.19



自由詩 『僕がギターを抱いていた理由』 Copyright 川村 透 2004-02-11 17:32:54
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