春の手簡
きりえしふみ

黄色い花が咲いたよ 緑の原っぱに
無数の貴石のように きらっきらっと笑いながら
咲き出したよ
ああ来た やっと降り立ったよ 朗らかな風が
南から柔らかな日差しと甘い香りを引きつれて
やあ 坊っちゃん また会いましたね と
挨拶してくれているみたいに
そよそよ さやいで 若葉を揺らす
日の光は川面で跳ねて
芽吹いた双葉は
明日こそもっと大きく!と 希望に燃えている
日差しにさやいで 伸びをする
俯く事など知らないように 俯く暇などないかのように
山の頂きを見据えて
涼やかな空へ向って ただ伸びをしている

それを見ていて
僕は何だか 泣きたくなったんだ
少しだけ自分が 恥ずかしくなったんだ
そうして鼻を啜れば また風がさやいだ
足下には 僕よりずっと小さな双葉が
笑いながら 汗ばみながら 今よりもっとと
空を見ている

春が来たよ 家々に 庭先に
黄色い花が咲き出したよ
だけども 僕の季節は まだ
ちょうど雪解けの水が流れ出したところ

(c)shifumi_kirye 2006/04/04


自由詩 春の手簡 Copyright きりえしふみ 2006-04-25 13:09:12
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