黒猫の瞳
服部 剛
君が帰った Cafeの 空席に
さっきまでノートに描いていた
空へと届く望遠鏡の幻がぼんやり浮かんでいる
別々に家路に着く
君の切なさも
僕の切なさも
この Cafe に置いていけばいい
そして
当たり前に訪れる夜明けのアスファルトを
君は教室へ
僕は職場へ
歩いていけばいい
一人になった Cafe で
カップに残す紅茶も少なくなった頃
リュックから君の詩集を取り出す
表紙には、けな気な顔で笑う黒猫
凛としなやかに立つ尻尾に結ばれた
赤いリボンは光を帯び
黒猫の小さい顔に手をあてると
詩集の中には
独りきりの夜にもの想う
若き詩人の君がいる
君の一編の詩を読み
紅茶の最後の一口を飲み終えた僕は
閉店前の Cafe を出て
駅へと続く夜道を独り歩き
終電の揺りかごに頭を垂らし
ひとときの幸福な夢を見る
目が覚めて
無人の車両から降り
屋根の無いホームの端から
欠けた月が浮かぶ夜空を仰ぐ
僕のリュックに入っている
詩集の中を独り彷徨う夜の黒猫をじっとみつめる
( 空 )
からのまなざし
これから描かれるべき物語を託され
歩み続ける黒猫
闇に光る瞳の先を見据えている
果てなく広がる
空白の未来