黒猫の瞳
服部 剛

君が帰った Cafeの 空席に 
さっきまでノートに描いていた 
空へと届く望遠鏡の幻がぼんやり浮かんでいる 

別々に家路に着く 
君の切なさも 
僕の切なさも 
この Cafe に置いていけばいい 

そして
当たり前に訪れる夜明けのアスファルトを
君は教室へ 
僕は職場へ 
歩いていけばいい 

一人になった Cafe で 
カップに残す紅茶も少なくなった頃 
リュックから君の詩集を取り出す 

表紙には、けなな顔で笑う黒猫 
りんとしなやかに立つ尻尾しっぽに結ばれた
赤いリボンは光を帯び

黒猫の小さい顔に手をあてると 
詩集の中には 
独りきりの夜にもの想う 
若き詩人の君がいる 

君の一編の詩を読み
紅茶の最後の一口を飲み終えた僕は 
閉店前の Cafe を出て
駅へと続く夜道を独り歩き 
終電の揺りかごに頭をらし 
ひとときの幸福な夢を見る 

目が覚めて 
無人の車両から降り
屋根の無いホームのはしから 
欠けた月が浮かぶ夜空をあお

僕のリュックに入っている 
詩集の中を独り彷徨さまよう夜の黒猫をじっとみつめる 

 ( 空 ) 

からのまなざし 

これから描かれるべき物語を託され
歩み続ける黒猫
闇に光る瞳の先を見据えている

果てなく広がる 

空白の未来








自由詩 黒猫の瞳 Copyright 服部 剛 2006-04-24 23:58:14
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