パラサイト・シングル

友人の結婚式には、彼此もう6回も顔を出している
親族の方に職業を聞かれる度、自由業と答えては訝しがられる
今時、その歳で時給750円で良いのかよ
こないだの同窓会では、そんな当たり前の事で突付かれた
夢物語を幾らリアルに嘯いても、所詮は絵空事
それくらい、俺だって解かっている


職場が実家の傍なので、金食い虫だった自家用車は売っ払って
自転車をふらふらと漕ぎながら、空ばかり眺めている
親はテレビを見ながら 俺と同い年の有名人ばかり、持て囃す
そうやって詩など書いている暇があるなら、定職に就け
お叱りの溜息は、いつものように 右から左へと流れて行く
それくらい、俺だって解かっている


今の職場は非常に充実していて、だから安くても文句など無くて
ただ、残業は嫌だから 社員になる気は更々だけど
母と二人きりになると必ず、将来のことばかり聞かれてウンザリする
今が充実していることが、一番大事な筈だろうに
もうすぐ夏が来る、そしたら職安にでも行くだけ行ってみるから
それくらい、俺だって解かっている


近所のコンビニの窓ガラスには、今日も猫背の男が写っている
怯えるように小さな いらっしゃいませ、の語尾は 掠れて聞こえない
お客さんの、顔ひとつ見ないでレジを叩いている黒縁の眼鏡
ひどく嫌悪感を憶える姿、なのに、よくよく俺との比較対象に挙げられる
冗談じゃない、俺はあんなに自分に腐っちゃいないんだ
それくらい、俺だって解かっている




カッコウって鳥は、自分の卵を他の鳥の巣に産む
孵った雛は、自分以外の卵を巣から落としてしまう
親鳥の愛情を一心に受け、育った雛は
最終的に、騙した親鳥の倍以上の大きさに育ってゆく
でも、気付かない
互いの行動は、そのすべてが本能だから
そういうふうに、出来ている それは
長い生活の過程で遺伝子に組み込まれてきた歴史らしい、ということ


帰路がてらの立読みから帰ってくると、居間のテーブルには何も無かった
食事を作ってくれと、ねだると たまには自分でやれと叱られた
カップ麺を啜り終えてから、自分の部屋に戻ってTVをつけた
フローリングに目を凝らすと、埃や髪の毛が浮いている

何枚かティッシュを取り出して、まとめて拭き取ってゴミ箱に投げた
敷きっ放しの布団に包まって、ワールドカップを観戦していたら
日本が先制シュートを決めた瞬間に、涙が出てきた
ちっとも嬉しくなかったのを、憶えている





今じゃ、もう その涙も出ない
無駄なことは一切しない
それが
賢い生き方だと、思うから

それくらい、俺だって解かっている
それくらい、俺だって解かっている




一度でも馴染んでしまえば最後、
住めば都 とは、実に上手く言ったものだと思う。


自由詩 パラサイト・シングル Copyright  2004-02-10 22:38:58
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