冷たい春
前田ふむふむ
どんよりとした鉛色の雨が、わたしの空洞の胸を
突き刺して、滔々と流れてゆく冷たさが、
大きなみずたまりを溢れさせている。
みずたまりには、弱々しい街灯の温もりによって、
歪んだ姿のわたしの言葉が、硬直して映りこんでいる。
それは、無造作に鋏で切り抜かれた真冬の風景―― 、
コンクリートを覆うスクリーンで青白く燃えている。
わたしの内壁をわずかに点滅する、もがくような灯火が、
あっけなく消える一瞬に、
予告のない、手の届かない充たされた時間が
多くの歓喜とともに、強引に過ぎてゆく。
羨みながら、濃厚に、
かなしみの旋律の色を染めてゆく、わたしは、
骨だらけの過去を引き摺りながら
唾さえ出ない口で、乾いた砂粒を噛もうとしている。
幼かった頃、失われた純白の月が、
かならず見えた懐かしい場所に立って
悔悟のおもいを、行く先の見えない脳裏に、描いても、
槍のように尖った雨は、
わたしの衣服を突き破り、冷えている青ざめた肌を
滲んだ血で書いた古びた日記の切れ端の紙に変えてゆく。
わたしは、この春を、
美しく雨の中に咲く桜の花を
溢れる涙のはく膜で、ろ過しながら、
挫折した春を今年も見なければならないのか。
未来の呼吸を頑なに遮断している、春の雨を
この細く、やつれきった手で、掻き分けても
わたしの手には淀んだ赤い血液すらも掴めない。
唯、もがくばかりの、指先に
すれ違うわずかの暖かい季節の眼差しが、諦めるなと呟く。