コンビニと交通整理とやのあきこ(敬称略)の午後
はなびーる

下手くそな交通整理の
手旗信号に舌打ちしながら
いずれ大型スーパーが出来るという
埃だらけの街を走る
再開発で軒並み農地は
重機で掘り起こされ宅地になり
いち早く陣地を占めた
コンビニ銀座が並ぶ田舎道


砕け散ったクリスタルを
繋ぎとめるようなやのあきこ(敬称略)の
歌声はすこしミスマッチ、で
変わりゆく街のもの凄い速度に
ミスマッチな鼓動は急きたてられ
息苦しさを誘い
当分薬とは縁が切れないな、と
苦笑いがこぼれる
あのひとの罪はぼくの罪だと
思いつめ眺めた記憶の骨が
解放されてゆくのは
ある意味安堵するのだけど
新しいビルの前にはどんな建物があったのか
もう思い出すことができない


大通りに面した医院に入って
頼んでいた薬をもらいにカウンターに並ぶと
「お待たせしてすいませんね」
馴染みの看護師さんが忙しすぎて
こちらの名前を忘れていることに
軽いショックをうける
軍医だったという先代が亡くなって
女医さんに代替わりしたその医院は
以前のゆったりした雰囲気が
すこしづつ様変わりしつつある
ずっと待っているらしい
白髪のおばあさんが
「しかたないね」と云うように微笑みかける


医院を出ると
どこからか水仙の香りが流れて
生きることは本来過酷なものだ
ということをひととき忘れそうな
柔らかい風が吹いている
新しく出来たコンビニは盛況で
散歩途中の人や
親子連れが出入りしている
カーオーディオから流れる
やのあきこ(敬称略)の歌はあくまでミスマッチ、で
サテンのリボンとなって
風に舞い上がってゆく
クリスタルのかけらは
見えない星座になって
青空に繋がっている





自由詩 コンビニと交通整理とやのあきこ(敬称略)の午後 Copyright はなびーる 2006-04-14 18:22:48
notebook Home 戻る