浮雲終日行
河野宏子
ポエムが生活を横切ることがあります
最近増えてる気がします
たなびかないわたしの毎日を
理由もなくそそのかします
今朝もあわただしく流れました
飲むことを忘れていた珈琲にミルクが
今さら渦巻いてるデスク
真昼の窓から差し込む光に舞う埃のずっと上
モザイク、濃淡グレーの街に
影をおとしながら雲は春をながめて
落ちた椿の花びらでそこだけが紅く染まる庭
謝恩会に向かう女子学生の海老茶の袴
駅裏の廃虚では、冬に死んだ野良猫が腐りはじめ
モザイク、濃淡グレーの街に
影をおとしながら雲は春をながめて
浮雲に抗うように在るわたしの一日は
仕事場にただ沈澱しています
ブラインドで隔たった表通りには
そろそろ夜のフィルターがかかりはじめ
モザイク、濃淡グレーの街に
影をおとしながら雲は春をながめて
貨物列車が通り過ぎるばかりの故郷
寒がりの父の早い朝のために
母はまだ今晩もストーブに灯油を足しているはずで
ポエムが生活を横切ることがあります
最近増えてる気がします
たなびかないわたしの毎日を
理由もなくそそのかすのです