浮雲終日行
河野宏子

ポエムが生活を横切ることがあります
最近増えてる気がします
たなびかないわたしの毎日を
理由もなくそそのかします

今朝もあわただしく流れました
飲むことを忘れていた珈琲にミルクが
今さら渦巻いてるデスク
真昼の窓から差し込む光に舞う埃のずっと上

モザイク、濃淡グレーの街に
影をおとしながら雲は春をながめて

落ちた椿の花びらでそこだけが紅く染まる庭
謝恩会に向かう女子学生の海老茶の袴
駅裏の廃虚では、冬に死んだ野良猫が腐りはじめ

モザイク、濃淡グレーの街に
影をおとしながら雲は春をながめて

浮雲に抗うように在るわたしの一日は
仕事場にただ沈澱しています
ブラインドで隔たった表通りには
そろそろ夜のフィルターがかかりはじめ

モザイク、濃淡グレーの街に
影をおとしながら雲は春をながめて

貨物列車が通り過ぎるばかりの故郷
寒がりの父の早い朝のために
母はまだ今晩もストーブに灯油を足しているはずで

ポエムが生活を横切ることがあります
最近増えてる気がします
たなびかないわたしの毎日を
理由もなくそそのかすのです


自由詩 浮雲終日行 Copyright 河野宏子 2006-04-13 19:35:22
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