おばあちゃんの命題
ブルース瀬戸内

おばあちゃんの命題は

生きることにはないわけで

生きないことにもないわけで

なんだかそんなことを越えたところに

なんだかもっと真実に近いものに

潜んでいるとされています。


おばあちゃんの命題は

さっぱりとした論理式では説明できなくて

まとまりのある概念では物足りなくて

どこか海外の名高い山から覗いても

少ししか見えなくて

数百の周辺情報を積み上げても

姿も形も見えなくて

それなのにとても大切なものだとされています。


おばあちゃんは

朝6時に起きて

自分の庭や近所の草むしりをして

年を感じさせないほどご飯を食べて

家の片付けをしたり

夕飯の買出しに行ったり

家の前で仲良しのおばあちゃんと談笑したり

ポストの牛乳瓶を取ろうとする僕を叱ったりして

亡くなったおじいちゃんの写真をじっと見たりして

夜は9時きっかりに寝ます。


おばあちゃんの命題が

この中に潜んでいるのか

それともすべてが命題なのか

それは分かりません。

おばあちゃんの一日はすでに完璧な気もするし

その継続が、一日一日の完璧さを担保している気もします。


おばあちゃんは

命題と同じくらい大きな

いびきをかいて寝ます。


自由詩 おばあちゃんの命題 Copyright ブルース瀬戸内 2006-04-11 07:29:59
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