苺宵
銀猫


スプーンの背で潰した苺から
紅が雲に届いて夕焼けになる


静まれ  しずまれ
桧扇を広げて
漆黒がそこまで来ている
上着の釦をもうひとつ閉めて
心して迎えよ

静電気をちりちりと帯びる恋の想いや
日向でぱつぱつ弾ける蕾の声を
ひと息に呑み込む夜がやって来るのだ


おずおずと触れた苺の
瑞々しい凹凸は
ときめく唇に似ているが
惑うな  惑うな  その赤に
甘く酔い痴れた先には
生と死の泣き笑いが待っているのだ

静まれ  鎮まれ
真昼の供宴に惑わされることなかれ


生命の始まりと終わりが
赤い色であったことを
奥歯でぷしゅりと噛み潰せ


おまえもひと粒の一期だったのだ





自由詩 苺宵 Copyright 銀猫 2006-04-10 12:46:39
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