水色ガードレール
なつ

この先は、記憶に住まうちいさな村です。

まるい形の標識があらわれたので、わたしは
あこがれの物語を
指先でなぞるときのように、目を閉じてみました。 
水色ガードレールの
はしっこに寄って歩くと、
いつもよりひろい余韻が
くらくらするほどに香ります。
この帯状の空間の
ひとつ、ひとつの粒子が
ばらばらに、それでも
内側のなにかを呼びさますように
泣いているので、
森までも想いは浸透して
水色ガードレールがかすかにふるえるのが、分かりました。
しかし、自然とこわくはありませんでした。

見えない視界の奥のほうには、
ちいさな村の輪郭が
かがみのように浮かび上がります。
水底の階段にさしかかり、
徐々に道幅もせまくなってゆきます。
それでも、自然とこわくはありませんでした。

やがて、せんさいな鎖骨や、耳たぶの、温度が
センサーのように反応して
泣き声に共鳴しはじめます。
不規則だった声たちは
なつかしい名前の響きに、重なって
すこしずつ、すこしずつ
手のひらのなかの
水色ガードレールにもなじんで、ゆきます。


自由詩 水色ガードレール Copyright なつ 2006-04-08 14:51:29
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