16個目のバームクーヘン
カンチェルスキス




 川のない街で      
 赤ん坊だった過去をなくし
 古い三階建てのデパートの屋上のフェンスにもたれ
 おれはフェラチオされていた。
 女が媚びるような視線で
 見上げてきた。
 おれはかなり腹が立った。
 



 今日は土曜日で
 赤のアドバルーンが
 青空にのぼってる。
 あれは
 不動産屋の土地分譲が
 はじまった合図だ。




 疲れた。
 女が言った。
 いつ終わるの。喉、渇いた。
 コーラでも買ってくるか?




 伸ばしたおれの右足が
 女の飲みさしのコーラを倒す。
 地面に広がっていく褐色の液体を
 食い止めるのは
 褐色の液体それ自身と
 時間だけだ。




 ねえ、いつ終わるの?いつ終わればいいの?




 赤のアドバルーンを
 ちぎれるまで
 蹴飛ばしたら
 それは空に向かう。
 同じように、みんな、それっきりだ。




 おまえが16個目のバームクーヘンを
 食べたくなるまで。




 女の頭がおれの下にある。




 ねえ、あたし。
 女が顔を上げる。
 鼻水が止まらないみたい。
 知ってる。
 蓄膿なのよ。
 知ってるよ。
 おれは言う。
 150円だった。
 何が?
 コーラ。
 高いね、二本とも?
 二本とも。別に
 拭かなくたっていいからな、
 鼻水。
 



 


自由詩 16個目のバームクーヘン Copyright カンチェルスキス 2004-02-08 17:18:53
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