ふたり
松本 涼

あまりに長い間ひとりでいたせいか
ある日わたしはふたりになってしまった

わたしたちはさすがに元ひとりだったので
顔も体つきも声も性格もそっくり同じだった

「さみしかったよね。」
「うん とてもね。」


わたしたちはお腹がすく時間も一緒なので
せまい台所にふたりで並んでよく食事を作った

「わたしは玉ねぎをみじん切りにするね。」
「わたしはお鍋にお湯を沸かすね。」

見たいテレビ番組も好きなタレントも一緒なので
チャンネルの取り合いもしないですんだ

「小力いいよね。くすくす。」
「なんだかいいよね。くすくす。」

小さなお風呂にも一緒に入った

「せまいね。」
「ほんと せまいね。」


けれどさすがに会社には
ふたりで出勤するわけにはいかなかったので
毎日交代で出勤した

お休みの方のわたしは
部屋の掃除や洗濯をしたり
買い物なんかに出かけた


ある日わたしには会社に好きな人ができた
もうひとりのわたしにも会社に好きな人ができた

偶然にもわたしたちが好きになったその人たちも
長い間ひとりでいたせいで最近ふたりになった人たちだった

そしてわたしたちは今
それぞれにその好きな人と暮らしている


もうひとりのわたしとは
最近は会っていないけれど
時々電話で話をしている

何しろ悩みも全く同じだから
話が早いのだ

「色々あるけど 幸せだね。」
「うん 幸せだね。」






自由詩 ふたり Copyright 松本 涼 2006-04-04 20:32:36
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