春のオブジェ
塔野夏子

淡いピンクのチューリップがいけられた
硝子の花瓶のそばに
罅の入った銀色の金属製の心臓が
取り外されて置いてあった
彼はその代わりに
肋骨の中に脈動変光星をひとつ
納めようとしていた
昨夜ひと晩中かかって
おあつらえ向きのものを探してきたのだと云う
それがすんだら次に
春という季節の不確かさの界面から
薄い皮膜をうまく掬い取って
それを肋骨に被せるのだと云う
そうすることで脈動変光星の光が
ほど良く外へ透けるだろうと云う
そんな話をしているうちに
ひとつの窓ではルビーのゼリーの夕陽が沈み
もうひとつの窓ではレモネードの結晶の月が昇ったのだ






自由詩 春のオブジェ Copyright 塔野夏子 2006-04-03 22:54:57
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