毛糸編み機
アシタバ

自動販売機のまえでポケットを探ったら

孔のあいた小銭が一枚出てきた

もっとないかとなおも探ったら

小さなねじが入っていた

何のねじだろうと首をひねったが

煙草を買うのはあきらめて

家に帰り横になっていると

母親が凄い剣幕でとなりの男をなじっている

その白い上っ張りを着た男は

うろたえて口をもごもごさせ

ネズミみたいな目をきょろつかせている

母親は急にあたりを憚るように声を落とし

こちらを指差して

返品…

とか言っているみたいだった

いえいえそれはできませんよ

男は申し訳なさそうに小さな声を出した

まるで詐欺だねこんなもの押し付けておいてさ

女は吐き捨てるように言った

どういうところが気に入らないのかもう一度きかせてくれませんか

どういうところもこういうところもこいつは碌に動きもしないのさ

ちょっと待ってください…いま調べてみますから

こう言ったのは、私であった

私は新製品の毛糸編み機を抱え上げ、裏返しにしたりして隈なく点検した

ああここだここだ、ねじが一本取れてました

いますぐ直しますからね

そしてその機械を修理したついでに、その女とできてしまったのである


未詩・独白 毛糸編み機 Copyright アシタバ 2006-04-03 18:47:28
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