ボイジャーはどうしようもなかった
まきび

ボイジャー2号という衛星をご存知だろうか
人間に勝手に作られて
宇宙に放り出されて
あげく永遠にさまよい続ける
寂しく小さな人工星

ボイジャー
君はしょうがなかった
何もほかに
しようがなかった

それでも
人間がこれまた
勝手に作った小宇宙なんぞという
プラネタリウムで
幸せな恋人同士よりは
幼いこどもに
ボイジャー
その人生の苛烈さをもって
強烈に自己意識を試させるのはなぜだろう

ボイジャー
あのときの少年は僕だ
作りものの宇宙で
星座の云々よりも
確かに君を見た
そこからは僕の姿が
見えるかい

永遠の暗闇
点々と咲いた星星のあいだ
さまよう君はどんなに心細いだろう
しかしいつも見る君は
心細さなど感じさせない
勇気とけなげさばかりが伝わってきて
気づいたら僕は泣いている

ねぇボイジャー
君はほんとうにそうなのかい
ほんとうは
突然外国に置きざりにされた
気弱な日本人のような心なのかい

ボイジャー
君は朽ち果てることはないんだ
終わりのない闇を
「しかたなく」生き続けるとは
どういうことだい

ボイジャー
君は変わらない
プラネタリウムの映像が差し替えられて
僕がボイジャーを見つけなくなっても
広がり続ける宇宙の中で
君はずっとひとり変わらないまま

ボイジャー
僕たちは君をつくってよかったのか
君を作ることで僕たちは
おそらく何かを失った


自由詩 ボイジャーはどうしようもなかった Copyright まきび 2006-04-03 17:49:34
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