砂の川
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砂の川は春が近いこの街を
いとも簡単にすり抜けていた
乾いた季節
小さな子供の遊ぶ声が
離れていても鼓動まで届いて



影の居なくなった景色
埃を纏った詩人は川を渡る

「この街も変わったな
住みにくくなった
それが解るんだよ
少なくとも彼等には」
いつか認知症を患った祖父が
硬いベッドの上で話していた言葉だった





そして影はいつしかこの街にも戻る





粒子の細かい粒はコンクリの壁を占拠し
さっきまで祖父が横たわっていたベッドに腰を下ろした
砂の川が今日もこの街をすり抜けていた
そしてそれはあの頃と同様に春だった



祖父は春に生くことを望んだのだった




自由詩 砂の川 Copyright . 2006-04-01 05:42:49
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