誕生日
佐野権太
小さなホールケーキ
真ん中に添えられたクッキーには
“パパ たんじょうび おめでとう”
みどり色のロウソクがひとつ
中ほどがポッキリ折れていて
むき出しの白い芯が
辛うじて身体を支えている
まるで僕
それでも
飾られたフルーツの隙間に
そっと沈みこませれば
役目を果たすことができる
祝いのメロディーは
あっけなく流れ去り
柔らかい炎に
感慨を揺らす余韻もなく
さぁ 吹けと
子供たちが身構える
溜息は
狙いを外したが
接近しすぎの小さな鼻腔から
吹き出した強風に煽られて
炎は音もなく消えた
再び蛍光灯の紐が引かれ
ずるりと現実に引き戻される
白が痛い
手作りハンバーグと
マッシュポテト
僕は幸せなのだろう
たぶん
くりぃむの上を
滑ってゆくような感覚
慎重に切り分けられてゆくケーキ
そのひとつひとつの大きさに
そして
クッキーボードのゆくえに
くるくると集まる視線
その傍らで僕は
引き抜かれた
みどりの角度を
じっと見ている
じっと見ている