タマゴの錯誤
ブルース瀬戸内

コロンブスがタマゴを見ています。

コロンブスがタマゴをじっと見ています。

タマゴはコロンブスを見ていません。

タマゴは世界を見ています。

タマゴは世界を洞察しています。


コロンブスはタマゴを持ち上げます。

タマゴはそれに抵抗します。

鳥類のはしくれとして

恥のない生き様をまっとうしたいのです。

もはや茹でられた身であったとしても

晩節を汚したくはありません。

それでもコロンブスは強引に

タマゴを少し割ります。

タマゴは殻を再生しようとします。

コロンブスの脇役になるために

産み落とされたのではありません。


しかしタマゴは

コロンブスが自分を破壊しようとしていると思い

そしてもはや最期なのかもしれないと思い

世界に対して、せめて

まっすぐ屹立して、その時を迎えようと

割れた殻の具合を調整して立って

世界のもっと先の遠くを見ました。


タマゴの周りでは、

しばらく歓声と拍手が鳴り止みませんでした。


自由詩 タマゴの錯誤 Copyright ブルース瀬戸内 2006-03-31 00:39:36
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