非合
葉leaf

一枚ずつはがれてゆく沙漠から抜け落ちる温度に眼の奥を洗われて、新しい沙漠が水上に浮かんでは映発する様をいくつもの角度から剪断する。つぶらな音覚が限りなく前転してゆくその先では泣くことになるだろう。手のひらから隆起する沙漠のうごめきに屈しながら、額にうずもれてゆく沙漠のひらめきを痛みはじめる。沙漠のうるおいはやむことがないので、沈みかけるしぐさをひとくさり閉じ込めておく。

僕を生み育てた穴は掘られている、とまなざしを偽造する。穴から穴へと、水から水へと、指先の血管を滞留させてゆく。魚たちはいつでも過去の雲合から降ってくるが、穴の形へと、つぼんだ本質へと、変相することはできない。手の塊をもってしても穴を埋めることはできず、視野を支える壁づたいに神経を走らせるので精一杯だ。穴は世界の幹であり、快楽の波線が枝葉をむしばんでゆく。

闇に見棄てられた僕の粒立った皮膚の下を電流としての小剣が経巡ってゆく。つかを握る僕の手を打つ逆雨がまばゆくて、空の裏地が透けて見えそうだ。無臭の人々に切りつける、流れる血は雨の残骸。無告の杉の葉に切りつける、散る砕片は皮膚の光。僕はひときわえぐれた闇となり、剣の内側をみたしてゆく。剣先からは炎の平面がいくつも投げ出され、剣の表面には細かい重力がきりきりと刺さってゆく。

ふくらんだ岩としての肺胞たちはながれる対角線の上でまばらに蒸れている。肺胞のかたすみには立ち枯れた真空があり、呼吸の精度をしずかに計算している。するどい日差しはあらゆる粒子を撃ち響かせるが、真空を撃つことはできない。砕けた波が真空へと破線をたどってゆくが、界面上でさびしく燃えあがるだけだ。真空はすべての悪を免れているし、すべての虚無を展開する。僕が粛々としわぶくときにだけ、真空はみずからを、ひたすらに青く塗る。

重ねられた手の根元にいたるまで、いくつもの雪原を過ぎなければならない。根元には海の鏡が置かれていて、未遂の爪たちがひしめき合っている。鏡の中の浜辺には無数の錐が生えていて、浜辺色の小石を実らせている。小石を握ってみるが、手の隙間からは小石の表面がこぼれ落ち、もはや小石は手の中に遍在する青である。手をつないでみるが、手と手の隙間では鏡の海がつぶれている。それでも僕は、世を捨ててまで手を崇拝しないではいられない。


自由詩 非合 Copyright 葉leaf 2006-03-29 18:34:35
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