<童話> 道と牛飼いと子供と旅人と君のこと
クリ



羊歯や下草いっぱいの
ジャングルの中 ずっと奥
ワライカワセミ 啼くところ
バクが散歩をしてました
だんだん道が出来ました
獣が通って踏みならされて
きれいな道になりました

きれいな道は 森を出て
都会の方に延びました
独りがちょっと寂しくて
みんなの方へ行きました



広い野原の真ん中で
良い牛飼いに逢いました
連れてる牛も 良い牛でした
とっても疲れた牛飼いは
カンカン照りの道端に
ぺったり腰をつきました
道はとっても気の毒で
木陰を作ってあげました
涼しい風も呼びました
傍に泉も湧きました
牛と牛飼い 喜んで
ゆっくり疲れを取りました
牛飼いはまた 牛を牽き
何かに祈って 行きました



も少し行った 畑の側で
小さな子供に逢いました
めそめそ泣いてる 男の子
しくしく泣いてる 女の子
道はとっても気の毒で
迷路を作ってあげました
おっかなびっくり 二人の子供
迷路の中で 行ったり来たり
いつでも一緒に 行きました



どこも不思議な部屋ばかり
お花が咲いた 春の部屋
真っ白だらけ 冬の部屋
小鳥が歌う 朝の部屋
なんだか恐い 夜の部屋
嫌な臭いの 憎しみの部屋
何にも持たない 思い遣りの部屋

やっと出口に着いたころ
呼んでる声がしてました
めそめそ泣いてた 男の子
しくしく泣いてた 女の子
二人は元気に 返事をすると
走って家に 行きました
大人になって 行きました



も少し行った 崖の側
旅する人に逢いました
帰るところがない人は
淋しく道を 行きました
生きてることで辛すぎて
ヒトに疲れた旅人は
崖っぷちまでやって来て
谷底見下ろし 泣きました
誰かの名前を 呟いて
やっと心を決めました
戻れぬ道を往きました

道は何にもできません
ずっといっしょに いてあげました
夜になっても いてあげました



道はくねくね延びました
小高い丘を乗り越えて
小河を渡り 山を廻って
ようやく街に着きました

大人がいっぱいおりました
車がビーと 過ぎました
ざくざく足音してました
見えない鳥が 飛びました
ボンと爆弾落ちました
街は静かになりました
それから少し 待ってると
風の音しかしませんでした



道はすやすや眠りに就いて
誰かが来るのを待ちました
何万年も待ちました
 …………………

苔や木漏れ日いっぱいの
ジャングルの中 ずっと奥
蝿取草の咲くところ
君が散歩をしてました

道はひっそり黙ったままで
君が来るのを 待ちました




                        Kuri, Kipple : 1989.6月
若いころに書いたいわゆる「大人のための童話」です。七五調。ちょっと恥ずかしい



散文(批評随筆小説等) <童話> 道と牛飼いと子供と旅人と君のこと Copyright クリ 2004-02-07 01:54:42
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