蒼 穹
虹波

木漏れ日の美しいベランダの際で
娘ははしゃいでカーテンにくるまる
私の綻ぶ顔を誘い出そうと
自分の顔をわざと覆い隠すようにして
声を上げて笑う

南の風は
私の深い溜め息と溶け合って
懐かしい音楽を振りまく
あなたが好き好んで聴いていた旋律
いや本当は
私に
謝る代わりに聴かせていたのかも知れない
私の長い黒髪は
落ち着いたリズムに乗って躍り出す
何となく口元が緩む
娘がカーテンから顔を出して
したり顔してる


二人で生きていく
覚悟はできていた


涙の通る頬の上の路は
ようやく塞がりつつある
熱を帯びた可視光線上の蒼が
雨水で染みて変色した土の色を
元に戻していくように


ああそういえば
今日は空が蒼く光っている


娘は
宙を見て何かを思い出したように耽る私を置いて
机の引き出しから
クレヨンと画用紙を取り出す
「パパ、これからもママとなかよくしてね」
描き終えたあなたの似顔絵の隣りに
そんな文字を付け加えて
ベランダへ飛び出すと
大空高く放り投げた
南の風が
その絵に翼を着けて
空に近づくのを手伝った
私の呼吸の辺りでは
相変わらずあの懐かしい音楽が流れていた


似顔絵は上手に消えていった
寂しがりで
私達を愛して止まない
蒼褪めた空の真ん中に



自由詩 蒼 穹 Copyright 虹波 2004-02-07 01:06:07
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