私的プロメテウスのアリス的逃走
The Boys On The Rock

笛吹き男が
こちらを向いてにこりと笑う
(愛は劫初のくびき)

青ひげ侯爵が
やさしい言葉を投げ掛ける
(言葉の虚構の投網)

ついでに
市役所勤めの桃太郎が
たまった市民税を督促する
(王は安楽の媚薬を嗅がせ)

おとぎ話の世界も
弱肉強食の生臭い雰囲気に満ちている

甘美な妖艶の果実を眼前に置かれ
よだれを垂らした 
一介の羊飼いであるぼくにとっても
トランプの兵士の追っ手を撒くのは
アリス以上に骨の折れること

ただ 分かってもいるのだ
最終章でのぼくのあつかい
ぼくは
白馬の騎士に強打され
惨めで 情けない醜態を晒し
童話の法則に打ちのめされていることを

ただ 今回は決定的に違うのだ!

手に カオスの神殿から盗んで
一度はこの手で返還した
羊皮紙の古文書を握り締めている
このお宝は 決して手放したりしないぞと
妖精とも妖怪ともつかぬ森の同胞達に
不惑直前の灰色の路地を逃走しながら
事前に 宣言をしていたのだ

たとえ すべての登場人物
あどけない読者にすら
べっかんこされたとしてもだ

童話的犯罪者となったとしても
イタリアの天文学者のように
この結論を撤回したり
こっそり本音を呟いたりはしない
と 自戒を込めて

この青春の羊皮紙のノートを
西の魔女に捧げようと思った


自由詩 私的プロメテウスのアリス的逃走 Copyright The Boys On The Rock 2006-03-26 12:10:04
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