桜よ
まほし

桜よ
あの人を包んでください
黒い古木にもたれて
胸の傷に手を当てる
あの人の背中をさすって


夜空の花となり生温かく散って
ほのかな明かりで目隠してください
ひとひらひとひら
妙なる調べのように
あの人の血を袖に流してください


 その胸になお炎を焚いて
 かの女の香りに通う人よ 
 わたしはあなたを抱きしめるたび
 かの女をぐしゃりと潰したかったことか


 あなたから隠れても
 離れることはできす
 赤くどろりと凍える指先に
 そっと息をふきかける


桜よ
あの人をわたしを
丸ごと包んでください
同じ木の根元にいるのに
星ひと回りほど遠くなった二人を




自由詩 桜よ Copyright まほし 2006-03-25 20:37:06
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