やまびとの散文詩(三)
前田ふむふむ

やまびとの散文詩―断片9

青白い炎でゆらぐ教会のなかで、わたしたちは、
旅をする黒だけの簡素な衣装を羽織った
右眼が見えず、右手が無い一行が、一心に祈りを捧げながら、
すすり泣いているのを見ている。
一行は、砂漠のようなまなざしを、朽ちかけた朱塗りの木像に
そそぎ、口を激しく動かして、何かを言っているが
不思議とそこから、謎めいた音階の古めかしい音楽が流れてくる。
そして、絶望を貪り、うつむく一行の剥き出した爛れた肌から
仄かな体臭が漂い、それは、わたしたちの夢のなかで見た、
美しい山々に棲む牝山羊の乳房のあまい匂いを
呼び覚まして、言い知れぬ悲しみが、血しぶきのように
溢れ出して、わたしたちは、それを、小さな胸のなかに
そっと抱きしめるが、時より鳴り響く遠雷の音に、
教会はぐらぐらと音を立ててゆれだして
夥しい海猫たちが、墓石で出来た荒廃した十字路に
むかって、一目散に飛び出してゆく。

やまびとの散文詩―断片10

何処からとも無く聞こえてくる海鳴りの音で、
眠れない夜は、わたしたちは、過去びとが残した
やまびとの歌をうたって泣いた。
ひかりのなかに山々の緑の木霊があらわれ、
花々は踊り、埋め尽くすほど並べてある宝石のように
小川は流れた。わたしたちは、この閉塞した青い断崖で、
起きているときも、夢を見ていたのだ。
朝のひかりとともに、海猫が、わたしたちの脇にとまり、
しきりに目立つように立ち回っているが、
誰も目にとめることをしなかった。
わたしたちは、それが、海猫であるということを、
わからないのだと、主張することで、
よりいっそう、悲しみの意志を、
声を上げて示し続けていたのだ。

やまびとの散文詩―断片11

上から、甲高い呻き声が聞こえて、それを打ち消すかのように
青ざめた不敵な喧噪が響いてくる。
わたしたちは、青い断崖にある唯一の螺旋階段を、
鉛のような重い足で昇っている。風が強く、砂塵が全身を蔽い
眼を見開きながら、高みを目指すが、わたしたちは、何のために、
昇っているのだろう。よく見ると、昇れば昇るほど、
地面が、段々と近づいて来て、迫ってくるではないか。
わたしたちは、もがくように地面に這いつくばると、
塩辛い味の砂が口にはいり、丁度、恐怖に怯える子供のように、
泣き叫んだが、仰向けになれば、広い青空一面に、
大きく、大きく、
夢の山々にいる母の微笑んだ顔が、浮かんでは、悲しいほど
儚く消えてゆく。




自由詩 やまびとの散文詩(三) Copyright 前田ふむふむ 2006-03-25 07:51:46
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