シュレッダーにマフェット
EnoGu

シュレッダーにマフェット
二人の関係にはなぞが多く、じつにさまざまな憶測が飛び交っている
シュレッダーにマフェット
いつも静かにたがいへ寄り添う、そんな風情で
今夜は知り合いのギグへ二人して忽然と現れ
そうかと思わせるヒマもなく
しばらくして二人はまた忽然とどこかへ、消えてしまった



経済的にめぐまれない国々や人々のため
カリフラワーの苗を売っています
三本分のお金で彼らは仕事用の自転車を買えます
二十本分のお金で彼らは娘や息子を大学へ通わせられます



よくそだつ森の奥深くでマフェットは
人知れずカリフラワーの菜園を所有している
よくそだつ森の底に長年にわたって堆積した
とても質の良い凍った陰影をしたたらせて
コバルト色のカリフラワーがいたるところでポンポン、
ぽんぽん、と繁殖している
菜園、といったところで特に管理されているわけではなく
明確な敷地やら区画をもっている気配もない
手入れなんかせずともカリフラワーはつねに昔から
あきれてしまうくらいぽんぽん実るから
マフェットにとってカリフラワーなんてのは
せいぜい小学校の裏山の椎茸とか山菜とか
一定の距離をはさんでただそこにある、みたいなものだった
そんな感じである日
シュレッダーがはじめて訪れたときだって
マフェットのカリフラワーの菜園は荒れ放題だったのだけれど
おまけにシュレッダーは野菜があまねく苦手で
なかでもカリフラワーが大っ嫌いだったのだけれど
青々と繁った広い葉を掻き分けて、もぎ取った
彼女のカリフラワーのひとひらを口に含んだ瞬間
それまで彼の持っていたカリフラワーの概念は
スーパーに積み上げられた缶詰の山のように
ガラガラと雪崩を起こして崩れ去ったのだ


ポンポン、
       ぽんぽん、


よくそだつ森のなかで、
シュレッダーとマフェット
緩慢で無軌道な作業の合間に
よくそだつ森のなかで
きをつけ、の姿勢でふたり平行に
仰向けにならんで、空を眺める
よくそだつ森のなかで見上げる空は日々刻々と、どんどん遠くに
みるみる小さくなってゆくみたいに見えるけど
空は空として
無くなるようなことはけっして無い
そんな、不思議な空をいつまでたっても
ふたりして仰向けにポカンと眺める
ごくたまに
そよぐ木々のはるかむこうに
紅白縞々の工場の煙突がのぞいたり
どこかの港のサイレンのような音が
風にのって聞こえてきたりしても
お互いあまり興味のないことへは
口出しや質問をしない
雑草の駆除
増えすぎた根の間引き
開ききった花の刈り取り
用水路の整備
夜行性の動物から若い苗を守る柵の建設
ふたりのやるべきことは目のまえの菜園に
あきれてしまうくらい
いっぱいあるのだし
ふたりに残された季節なんて
これはもうほんとに
気の遠くなるくらい
いくらでもあるのだから






未詩・独白 シュレッダーにマフェット Copyright EnoGu 2003-07-21 08:46:14
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