朧な太陽 〜空の色 ♯2〜
服部 剛
あのレストランの前を通り過ぎるといつも
寂しげな人影が窓の向こうに立っている
何年も前、飲み会を終えた夜
あなたはいつまでも電車を降りず
家路に着こうとしていた私は仕方なく
「じゃあ、ファミレスにでも入りましょう」
と明るい声で拍子抜けな答を暗黙の内に伝えた
「あなたはぐずぐずしていながら、とても頑固な人ね」
「いやぁ、寂しがり屋なくせにマイペースなもんで・・・」
今日僕は
列車の輪音に少し振動する駅の広場で木のベンチに腰かけ
舞い降りてきた無数の鳩達が
重い荷物を降ろした初老の男が投げるパン屑に群がり
それぞれに啄ばんでいる日常の景色に身を置いて
背を丸めながら頬杖をついている
さっき通り過ぎたあのレストランの窓に映るあなたの人影も
駅の広場の端で毛布を被り瞳を閉じて午睡するホームレスも
膝にノートを乗せてこの宛てのない手紙を書いている僕自身も
心の蓋を開いてみれば似たような空の色が広がっている
舞い降りてきた一羽の烏の鳴き声が響くと
無数の鳩達は一斉に羽ばたき
やがてまた一羽、二羽とパン屑のもとへ舞い戻る
広場の上の空を見上げると
うっすらと世界を覆う
雲の向こうに朧な太陽は隠れ
僕の身を包む灰色のコートに
ぽつり ぽつり と
雨の滴が落ちて来た