朧な太陽 〜空の色 ♯2〜
服部 剛

あのレストランの前を通り過ぎるといつも 
寂しげな人影が窓の向こうに立っている

何年も前、飲み会を終えた夜 
あなたはいつまでも電車を降りず 
家路に着こうとしていた私は仕方なく 

「じゃあ、ファミレスにでも入りましょう」 

と明るい声で拍子抜けな答を暗黙の内に伝えた 

「あなたはぐずぐずしていながら、とても頑固な人ね」 
「いやぁ、寂しがり屋なくせにマイペースなもんで・・・」 

今日僕は 
列車の輪音に少し振動する駅の広場で木のベンチに腰かけ 
舞い降りてきた無数の鳩達が 
重い荷物を降ろした初老の男が投げるパン屑に群がり
それぞれに啄ばんでいる日常の景色に身を置いて
背を丸めながら頬杖をついている 

さっき通り過ぎたあのレストランの窓に映るあなたの人影も 
駅の広場の端で毛布を被り瞳を閉じて午睡するホームレスも
膝にノートを乗せてこの宛てのない手紙を書いている僕自身も 

心のふたを開いてみれば似たような空の色が広がっている 

舞い降りてきた一羽のからすの鳴き声が響くと
無数の鳩達は一斉に羽ばたき
やがてまた一羽、二羽とパン屑のもとへ舞い戻る 

広場の上の空を見上げると 
うっすらと世界を覆う
雲の向こうにおぼろな太陽は隠れ 

僕の身を包む灰色のコートに 
ぽつり ぽつり と
雨の滴が落ちて来た 





自由詩 朧な太陽 〜空の色 ♯2〜 Copyright 服部 剛 2006-03-18 17:30:07
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