冬と歩み
木立 悟




もう歩みを止めたのに
ひとさし指は
冷たく曲がったままでいた
もう吹雪のなかにはいないのに
他の指から
ひとり離れたままでいた


指を伝い 流れるものから
やがて温度は失われ
ふるえはふるえのままに残され
青と碧と翠の道
歩むものへの
言葉のようにつづいていた


光にふちどられたかたちが
視界のまわりに座っていた
水たまりのなかで
たくさんの楽器が
奏者もなく鳴っていた


土のくぼみに
揺れる雨水
青と碧と翠の底には
水に混じらぬ水がいて
夜のうたを唱いつづけた


あたたかな雨の眷族
渦まくものの眷族が飛び
濡れた草の重なりの道
石の原に沈む文字
歩むものの名を呼びつづけた


羽音が途切れ
しずくの静けさ
痛みを帯びても
水は水を離れまい
冬のはざまを見つめるもの
他者を知らぬ手のひらの
冷たく曲がった指のさす星
吹雪の方位へと歩き出す











自由詩 冬と歩み Copyright 木立 悟 2006-03-17 16:02:00
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