目覚め
篠有里

それによって夜明けはやって来る。

ほとんど愛おしいと言うべき郷愁の色を帯びた衝撃を伴って

今日もやって来る。三千世界の向こうから。

正しく傾いている背景、

快復したと思っていた身体からの突然の痛みや、

時間に付け加える事のできない予感を切り進みながら来る、

ひたひたの眠りの終わりは、

牛乳よりも白い、充ち満ちた丸い縁を循環し、

薄膜のような記憶によって突然にいつも混ぜられる

冷静な、落とされた心の目次によって今日も

ぺらぺらとめくられるべきものだ。



(ひとつの物を通して)

(切り通し)

(もののこえ)

(ふたり相争う)

(場所)

(クールに) 

(心尽くす事無く)

(こえのみなもと)

(対峙する)

(光景)



耳のために、それを探す事になるとは誰が思っただろうか。

誰かの謝辞が終わった後、

全ての音、テレビのノイズはひたすら眠りの質を落として、

ゆらゆら動く人影の中に繰り返し消えていく。

そう、増殖し尽くした黒い馬の蹄の音だけはまだそこにあり、

ほとんど絶望と言ってもいい、

得体の知れぬ感情が白々と胸を満たす。

満たすものはいつも液体、

私が動くたびに重くたぷたぷと形を変えて、

ええ、そうですとも。馬の蹄はそこを駆けていき、

水の馬は何度死んでも生き返る。

繰り返しのすぐそこに、私はそれら、以下の事実を

知っているとも言える。



(耳は何の役にも立たない)

(長年に渡る軌跡)

(泉を探せ)

(ありがとう)

(かつて…)

(確認する)

(要素)

(なにかありませんか)



それは私がふたつの夜明けを迎えるにあたって、

すぐに見えなくなるはずの、

開かれた反対の眠りを束にするため、

本当にくつろいで感じる事ができる最後の可能性であり出口だ。

むしろそれは私にとっての目覚め、

新しい朝の到来を予測する、

誰が考えても素敵なひとつの事実であるはずだった。

海の中に腰まで浸りきり、

どうしても動かない足をどうにかして先に進めようと、

腕を使って水をかく動作をするものの、そこは見知らぬベッドであり、

既知の狭い海でしかない。想像の中だけの海、

私が否定すれば今日もすぐ消える。

さて今日は何を食べようかと、他の欲がそれを凌駕して、

更には誰かに会って話したいというシンプルで

強烈な痛みが何もかもを駆逐する。



(キラキラと)

(極私的に)

(ひそやかな生活)

(誰からも隠れてあろうとする)

(断片)

(かなしいおもいで)

(観葉植物)

(予想)

(預かった言葉)



やはりそう来るべきかと半ばあきらめ、

ひどく虚しく背中を曲げて立ち上がる今日の開始、

別の部分でも立ち上がる何か。

起動し始めるシステムに追いつこうと懸命に努力するため

胸に赤いリボンを結んでみる、私たち。

おはようございます。おはよう。

今日という日が懐かしく思われるためまた繰り返された。

同じプロセスをたどって同じ場所にたどり着き

結局別の場所にしまい込まれる。

腹の中にたまった黒い水は、

決壊する直前まで驚異的に水位を上げ、

それでもなおかつ破滅の予感を誰にももたらしはせずに、

あくまでひそやかであり続ける。

誰もがいつしかその水に飲み込まれ、

自ら深く沈んでいく未来という名の終わりを待ち望み、

夢見て、夢見て、暗い水の中から

白い月色を精一杯手を伸ばして哀しく望む、



(それによって夜明けはやって来る)



たくさんの人々の群れが、あなたには見えますか?


自由詩 目覚め Copyright 篠有里 2006-03-16 18:53:10
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