パイオニアペンギン
美味

どうも、初めまして
そういって差し出された名刺には
川田、と書かれていて
その時少し気になることがあったが
構わず私も名刺を渡した
彼は私の名刺を一瞥してから
スーツのポケットにしまい
私に適当に座るように勧めてきた
しかし、辺りはペンギンだらけで
どうやって座れば良いのか分からなかった
そうして立ち尽くしていると
彼はペンギンを退かして場所を作ってくれたが
そこには卵があって
それを潰さないように座るのは大変だったし
座り心地も悪かった

二時間くらい彼から話を聞いて談話は終わった
時折吹く潮風は冷たくて
私の唇はすっかり紫色になってしまったが
彼は寒さに慣れているのか平然と時計を気にしていた
楽しかったです、と私が握手を求めると
彼は力強く私の手を握り返してくれた
柔らかくて暖かかった
僕はこれから南極に飛ばなければいけないので、この辺で
彼は頭を下げると、そのまま海に飛び込んで
まるでペンギンのように泳いでいった
なるほど、彼は海の中を飛んでいくのだ
彼にとって空は海の中にあるのだ

彼との談話は実に素晴らしいものだったが
川田、の名前の由来が推測の域を出ずにいたのは言うまでもない





自由詩 パイオニアペンギン Copyright 美味 2006-03-16 06:06:01
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