底流の鏡
カンチェルスキス




 
 1番線のホームで各駅を待った。
 2番線のホームに各駅が来た。
 赤いコートの女が柱にもたれていた。
 おれは各駅に乗った。
 眠くなってきて、眠った。
 四つ先の駅で下りた。
 改札を抜けて、縦に並んだ他のやつらの迎えの車を
 通り過ぎた。
 ドブ川にかかってる橋を
 渡っていった。
 風が強かった。
 三度潰れた喫茶店が潰れていた。
 歩道橋の上で散歩の老夫婦とすれ違った。
 どちらもフードのついた上着を着てた。
 フェンスに個人名がついてる金貸しの看板が
 いくつか縛りつけれてあった。
 ラーメン屋に入った。
 にきび面の高校生だった。
 ハンチングに口ひげのおっさんが
 メモ帳を開いて今まで殺したやつらを確認してた。
 扉の近くに座った坊主頭のおっさんは
 その中に入ってなかった。
 おれは入ってた。
 おれは大盛りのラーメンを頼んだ。
 坊主頭のおっさんが
 スープを飲み干し鼻を啜った。
 二つあるカレンダーは接骨院と畳屋だった。
 どちらも毎週火曜日のところに赤いマルがついてた。
 ハンチングのおっさんにラーメンがきた。
 卵入りだ。
 おれは冷水をコップに注いだ。
 こぼれてコップのまわりに水溜りができた。
 大盛りのラーメンがきた。
 坊主頭のおっさんが勘定を済ませ出て行った。
 丼を片付けにいった主人が扉の外を見て
 言った。
 今日、寒いなあ。何度や?
 厨房にいる妻と高校生は
 縦列駐車の話を続けた。
 おれはスープと麺を交互に食った。
 ハンチングのおっさんは
 おれを殺したのは間違いで
 わたしが殺したのは
 きみによく似た人だ、とは
 訂正しなかった。
 巻き寿司を一本追加して
 出て行った。
 
 
 扉が開いて
 作業服の男が二人入ってきて
 一人はトイレに向かった。
 テーブルについたやつが
 二人分注文した。
 トイレから戻ってきた。
 今度の休みはいつだ、という話になった。
 給料日の支払日についても話した。
 会社が潰れるかもしれないという話になった。
 おれは立ち上がり
 レジに向かった。
 主人の頭から整髪料の匂いが濃くにおった。
 釣りを受け取ると外に出た。
 しばらく歩いてみた。
 本屋がつぶれて
 まわりを黄色と黒のロープで囲まれてた。
 女子高生が二人並んでローソンの車止めに腰かけて
 カレーまんを食べてた。
 ガソリンスタンドから
 給油を終えたダンプが
 合流した。
 ペットの美容室の電飾表示が点滅してた。 
『プードル』という文字が点滅してた。
 おれは明かりが尽きるところまで
 歩道を進んでいた。
 引き返した。
 駅に戻った。
 ドブ川の橋でさっきまで電車に乗ってたやつらと
 すれ違った。
 改札を抜けて
 階段をのぼり
 上りのホームに立った。
 自動販売機の前でカップのホットコーヒーを
 待った。
 出来上がるまでに
 いろんなことが頭に浮かんだ。
 指紋にカップの熱を感じるずっと以前に
 そのことを忘れた。
 進んで
 ホームの屋根が途切れる手前のベンチに座った。
 胃にコーヒーの熱が焼きついた。
 白い息が出た。




 誰かの靴が
 おれの目の前を通り過ぎた。

 




自由詩 底流の鏡 Copyright カンチェルスキス 2004-02-05 16:44:58
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