肺に混じる雑音
フユキヱリカ

[hi−fi]

咳をしたあと
ひゅう、ひぅ と、
咽喉が鳴るんだと思った

きみは 背を震わせていたんだ
いつもそうやって


シーツのなかでつま先だけが冷えるから
それから眠れないでいた


あの夜、窓を叩いた枝が
葉を繁らすころ
皮膚の匂いが濃くなるのを嫌った

僅か残すばかりの線を
知るのを急ぐように
の、を急ぐように


原音を忠実に再生する
私を見てわらう
hi−fi
噛んだ唇をわらっても
その目を睨み返したことも
てのひらをぎゅっと握り締めたことも
おとなになればわすれるのに、ね


また泣いていたの?

そうじゃない
きみにやさしいことばをあげたいんだ


きっと うまくいく と
つぶやいて
明日を待って眠る
ただ眩しくて見えない空、

青空のファルセット



[振動数]


震わす唇のクラップ
コホン、と
吐き出した息

真っ白いコンクリートの壁を
叩きつけるよう何度でも
ハウリングするたび
君の肋骨が持ち上がる


通過する粗暴な雨を
待つ花のようだ
祈るようにただ待つだけ

じっと暗雲を睨んで



あおいあおい血管に
水滴が落ちる

てのひらを強く
握り締めても 振動数がたりない



味のないスプーンを
君がおいしいと頬笑む

そう、おいしい と
膝の上に涙を包んで
わたしはそっと席を立つ



君が
細長いチューブに成ってしまう


わたしの名前をもう
覚えることはなくても

その眼で見ていてほしいの



*




自由詩 肺に混じる雑音 Copyright フユキヱリカ 2006-03-14 00:36:09
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