届かなかった手紙
クリ


 これは僕の若かりしころの実話です。当時はただ「運命」を感じた、だけでしたが、
最近電車の中で同僚の女の子に話したらボロボロ泣かれてしまい、困惑しました。
「そんなに悲しいことなのか」と不思議に思いました。こんな出来事です…。

僕は4年以上つきあい、結婚を考えた女性と、ある理由で別れてしまいました。
お互いに嫌いあっていたわけではないのです。別れようと言ったのは僕です。

 4ヶ月後僕は彼女に手紙を出しました。内容はこんな感じでした。
「やっぱりあなたは僕の宝です。もう一度やり直したい。もしあなたも同じ気持ちなら、
○月×日午後○時から×時まで、町田の喫茶店+++で待っていますので、来て下さい」
僕はその提案を切り札にしようとしたのでは決してなく、彼女の気持ちを確認した上で
もし僕と一緒にいたい気持ちがないのならきっぱりあきらめようと考えたのです。
僕にとっての完璧な区切りにしたかったのです。手紙にもそう書きました。
当日、2時間待って、彼女は来ませんでした。落ち込むことはありませんでした。
悲しかったですが、「明日のことを考えなければ…」と思うきっかけにしたのです。
4ヶ月間悩み抜いた末、友達にも「次探すよ〜」と強がって宣言しました。

 それから2ヶ月近く経ったある日、突然彼女から電話が来ました。
「手紙、昨日読みました」えっ! 昨日? どういうこと。どういう電話なの今日は???
彼女は別れた当時実家にいて、僕は当然実家に手紙を送ったのですが、
実は彼女はその後友人のK子さんと一緒にアパートを借りていたのです。
僕からの手紙を彼女の母親が受け取り、どういうわけか「保留」していたのです。
で、久々に実家に帰った彼女に、母親が、こんな手紙が来ていたのよ、と渡したのです。
そして彼女は、過去のことになってしまった約束を知ったのです。
僕は唖然とするしかありません。お母さんをちょっとだけ恨みました。
「だからあの日は行けませんでした」と、彼女。さらに今、つきあっている人がいる、と。

「でもわたし、これでよかったのかも知れないと思うの」「どうして?」
「だってすぐに手紙を読んでいたらわたし、
行ってたと思うから…」「何だよそれー!」
「…」「…」「でもそれから2ヶ月経ったの」「…うん…」
その後の会話は覚えていません。

 僕は、あの頃の彼女を尊敬しています。
 結婚した今でも、久しぶりに彼女の夢を見ると、逢いたい、と思います。


                                    Kuri, Kipple : 1999.09.02


散文(批評随筆小説等) 届かなかった手紙 Copyright クリ 2004-02-05 00:02:09
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