黒と歩み
木立 悟





ふいに軽くなったからだから
いったい何が抜け出したのか
いつものようにうつむいたまま
何も思うことなく歩きつづけた


なぜか息をするたびに
ひとくちの黒が出ていった
叫びのたびに 繰り言のたびに
それは濃くなるようだった


屋根に溶けて 月は暗く
すぐそばの星さえ呑めずにいた
ちょうつがいの外れた瞳の海
家並みの果てにかがやいていた


持つものも待つものもないうたが
現われては現われては消えていき
めまぐるしい黒を踏みしめた跡
一瞬の重なりの道につづいていた


目の前から埃はいつまでも去らず
やがて国になり 空になり
描くことを 焼くことを
刻むことを繰りかえした


花はけもののかたちにふりかえり
林の奥にひとりはばたき
傷は空を映して浮かび
羽だけを羽だけを導いていた


火でも光でもむらさきでもなく
つぶやきが野を動かして
無数の陰のうねりのなかから
微笑むうたは現われた


血のにおいの春の切れはし
ひとくちの黒に降りそそぎ
重くも軽くもない冷たさの
水紋の歩みに寄り添っていた











自由詩 黒と歩み Copyright 木立 悟 2006-03-11 18:08:36
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