無口な腕
木立 悟



静かに 触れる と音がして
すべての触れるは落ちてくる
億の目を持つ無口な腕が
すぐそばにある腕だと知るときに



鉄の船が川に浮かぶ
様々な手書きの時計で埋められている
褪せた黒の壁の上に
すべて白で書かれた数字と針
ひらいたままの跳ね橋をすぎ
船は海の音へと向かう



通りすぎるたびに
引き延ばされてゆく景
異なることなく異なりつづけ
連なりつづける翳りのかたち
降る雪の仕草から
少し遅れて動く影
小さく欠けながら進む船
白い文字に降り積もる白
ただそのままに発するものを欲して
船は翳りの音を聴いている



川岸に流れつく
元に戻るはずのないかけらを拾い集めて
ただ静かに持ちつづけ
誰のものでもないかたちにかがやかせる
すべての触れるの内にある
見えない炎にひらく億の目
白く描かれた針のように
時計の船の行方のように
無口な
無口な腕







自由詩 無口な腕 Copyright 木立 悟 2004-02-04 23:21:47
notebook Home 戻る