調律
松本 卓也

ちりん、ちりんと
ストラップにかけた
小さな鈴が泣いていて

僕はただとぼとぼと
涙さえ流せずに
現実に草臥れていました

金に囚われた義務と
時に縛られた責任が
いつの日か忘れ去る
過去の映像を捉えて

笑っている幼い僕が
とても滑稽に見えるのです

そうやってポツリと
呟いた嘆きの向こうで
太陽は昨日より少しだけ
ゆっくりじっくり
地平に沈みます

やがて静かな歌が
空耳のように聞こえて
歌詞の意味もわからぬまま
ただ立ち尽くすのです

小さなメロディは
風に流れた雲を引っ掛け
少しだけ重みを増しました

それは褐色の光を浴びて
何処となく寂しげに
微笑みかけるだけだから

僕はただ圧し掛かる生と
脅える死の果てを夢みて
あからさまな希望を
詠ったりするのです

嘘をついている訳でも
意地を張っている訳でも
諦めているのでもなく

ただ空を這う雲を五線紙に
我が身を重ねて描くのは
いつもと同じに過ごして
少しだけ萎えた心に
一片の慰めを期待して

淀みを掻き分けながら
散りばめた音を胸の中で
調律していくのでした


自由詩 調律 Copyright 松本 卓也 2006-03-10 01:36:05
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