うたごえと灯
木立 悟





夜の灯の下
藍は蒼
溶け残る道
呼びとめる声


氷をすぎる火の上で
音は昇り 月に会う
昼のにおい 日々の名残り
凍えては小さくまたたくもの


夜から分かれた細かな夜が
焦げたにおいとともにたなびき
とどまらぬことを促すうたごえ
朝へ朝へと至るうたごえ


長いあいだ忘れていた
旧い友人たちの背が
微笑ましげにそして寡黙に
空を歩み去ってゆく


野のかたすみに
くらくらと手を振る
ふたつの色のようにひとつの
碧のしずくを聴いている


ひとつまたひとつ
巨大なしたたりを描きながら
想いに至らぬ想いの業火に
夜の歩みはゆらめいてゆく


偽りの蝶の水鏡には
逆さに浮かぶ真の姿
手のひらに重なる手のひらの
影のかたちにはばたいている


ふたつの灯が野に鳴り響き
手を振るものは手を振りつづけ
うたごえはわずかな雲間をぬって
歩むものの行方を照らしだす










自由詩 うたごえと灯 Copyright 木立 悟 2006-03-09 13:45:05
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