ゆうべの闇の恨み言
黒田康之

遠くに真っ赤な窓が見える
紫色の夕暮がだんだんと深い灰色になる時間に
遠くに見上げる団地の窓が
ただひとつ真っ赤に染まっている

僕とお前はその窓を見上げて
ゆっくりと二つのカゲボウシになる

あたりはひゅうひゅうと風が吹きぬけ
黒と灰色のカゲボウシになる

僕はお前の
モンシロチョウの鱗粉でできた手を握った

何もかもがスムーズでしっとりと暖かで
それはお前の手のひらそのままなのだが
僕は適当な言葉がまったく失われたまま
お前の鱗粉の手のひらに触れる

カゲボウシのお前からは濃密な肌の匂いと
それに似合うコロンの香りが漂ってくる
遥かに星が瞬くまで
僕らはこうしていられるだろうか
遥かに星が生まれるまで
僕らはこうしていられるだろうか

どうしようもなくお前の夢を見て眠る夜に
僕はこの風景を思い出す
遠くに赤い窓があり
星が瞬き始めたどこまでも続く暗闇で

百年の清流のような
この星と同じ重さの一片の
天の鱗粉としてのお前の体温を
ひゅうひゅうという風の音とともにある
そのなめらかな潤いとしての
微かな泉としてのお前の姿を
おそらくきっと
僕は見るのだ


自由詩 ゆうべの闇の恨み言 Copyright 黒田康之 2006-03-09 10:49:27
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