しっぽとねこのみみ
夕凪ここあ

お月見の日に
呪文のように祈りを囁くと
願いが叶いました

という噂を耳にしたので
信じて囁いてみたところ

私はにんげんになれました

でも気になることがふたつだけ
しっぽとねこのみみ

こればかりはどうにもならなかったので
半分にんげん半分ねこという
その姿で愛しあの人に会いに行きました

あの人はたいへん優しい人で
ねこ好きな人でした
私のことをかわいがってくれましたが
あぁ、私がねこだからなのでしょうか

それでもいいのです
あの人のそばにいれるということは
とても幸せなことですから
このしっぽとねこのみみも愛しいものでしょう

それからたくさんお話をしました

魚は食べます
小鳥は食べません
甘えるのが好きです
いえ
ほんとに好きな人にだけですよ
私は家のねこではありませんから
なつくのは好きな人だけです
しっぽはあまり触らないでくださいね
泣いてしまいますから
撫でられるのが好きです
鳴いてしまいますけど
小鳥は食べません
ミルクは飲みます
あぁ、好きですか

しっぽとねこのみみ

それから私はいつでも
あの人の後を追って

あの人が他のねこを撫でるたび
少し寂しくなって
泣いてしまいます

私はにんげんですから
嫉妬というものがあります
そういうときは
振り向いてほしくて
いつもより大きな声で
鳴いてしまいます

あの人は
にんげんの私が好きなのでしょうか
ねこの私が好きなのでしょうか

でもそれでもあの人のそばにいれるならと
想うと、聞けないでいるのです

愛しあの人は好きだと言ってくれました
それだけで私は十分幸せ者なのです

ですからこれも愛しいものなのでしょう

しっぽとねこのみみ



自由詩 しっぽとねこのみみ Copyright 夕凪ここあ 2006-03-07 22:46:51
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