履歴書
霜天

まだ声が上手くいけない
扉の前で迷っていると
ここまでの、空の履歴が落ちてくる
からっぽになれる瓶の底には
薄い眠気で、まだ僕がいる


軽くなった手のひらには
まだ水分が、残っていて
もう少しだけ繋いでいられるようだった
快速電車の網棚の上
零してしまった鞄の行方が
回転しながら戻ってくる

そこから上手く選べない僕の後ろで

鍵を掛けたままの引き出しには
たくさんの言葉が詰まっている
忘れる、ことも出来ないもの
君の口笛の音の外れたリズム
調子はずれの、飛び方で空を
駆けるように埋めていった

 いつも日曜日の空になると
 図書館の声の届かない場所で
 新しくやってきた本の隙間
 いつも二人分を眠ってやり過ごした
 また春がやさしくなるねと
 珈琲に慣れない夕暮れ時には


君が君から分離して
一握りの僕の記憶になっている
細胞へ染み渡っていく水分のような
ここにある自然として見上げている
もうどこにも一致しないはずの
埋め合わせとして


時々、君の口笛を真似してみようと思うけれど
僕はそこまで下手じゃないことにいつも、気付いて
どこへも行けなくなってしまう


自由詩 履歴書 Copyright 霜天 2006-03-03 02:00:47
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