少年のまま
佐野権太

放置された畑 咲き並ぶネギボウズ
バコン バコンと
プラスティックバットを振りぬいては
浅緑を空の彼方に弾き飛ばした
なぜそんなことをするのだと叱られたが
ネギボウズの高さが
ちょうど僕らのストライクゾーンだったから
としか答えようがなかった

ため池のザリガニ釣り 棒きれとタコ糸
ゆるゆると手繰り寄せる
泥水に一瞬浮かび上がり、逃した
アメリカザリガ二のハサミ
僕らは
すっげぇアカかった
すっげぇデカかった
を連発した
地主のカミナリ爺さんに
ため池で遊ぶなと
何度も追い出されたが
ザリガニはみんなのものだというのが
僕らの言い分だった

桑畑の近道 深緑の匂い
葉のあるうちは跳ね返る枝が優しい
根株に躓きながら桑の実を探した
前歯が赤紫に染まってしまうので
すぐにバレた
バツが悪そうに出した舌も
鮮やかに染まっていた

隣の犬よりも元気だった あの頃
叱られそうなことは
どれもこれも妖しい輝きを放ち
無垢な黒目にくるくると彩りを映した

消えてはいない
消えてはいない

楽しむことにひたすら貪欲だった
あの頃の僕が
いる

ほら いま
走り抜けて

笑った


自由詩 少年のまま Copyright 佐野権太 2006-02-28 17:08:17
notebook Home