僕らは海にまぎれて
たりぽん(大理 奔)

いつまでも、それを手に入れたいと
弱々しい手で、僕らは汲む

井戸の底に微かに照らし出される
月の光の輪郭のようなものを

  楽しいといっては  ひとつ汲み
  愛しいといっては  ひとつ汲み
  寂しいといっては  ひとつ汲み

だのに、かの山塊の雪解けは伏水し
弱々しい僕らのじゃまをする
汲み続けても
輪郭の錯光すら
手に入れられないまま

  哀しいといっては  ひとつ汲み
  苦しいといっては  ひとつ汲み
  怒りを覚えては   ひとつ汲み
  つるべをまわしては ひとつ汲み

二等星が渡りをすませる頃
低層雲が真っ黒に奪うので
その行方に視線をやると
汲み出された水が海となり
巨きな闇に涙をたたえて
無数の輪郭を漂わせる
そうして、つるべを放り投げ

  弱い僕らは得ようとして
      海に入ってゆく
  弱い僕らは得ようとして
      海にまぎれていく

いつまでもそれを、手に入れたいと
どこまでも、どこまでも




自由詩 僕らは海にまぎれて Copyright たりぽん(大理 奔) 2006-02-28 01:58:39
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