手のひら
石川和広



いのちの外れをふらついて
月が見える窓にもたれる

二月の終わり

ねむいは深い深い深い

ベッド
指先がまくらの影をつきさして
おきあがれない
おきあがれない

芽がふくらむ季節

わたしの詩はだめなのか
それすらもわからず
書けることにやみくもに感謝
書く
書くという行いの中に
たたずむ光

おきあがれない
倦怠を生きるわたし


ほら 呆けているような
強い葛藤があり
思うままにならない記憶
よみがえってくる
よみがえってくる
生まれる前まで

やがて昼過ぎ
ふらり
目が開いた
目が開くまでの時間
おねしょをするわけでもなく
おはよう こんにちは
するわけでもなく


ヘルパーだったわたしが空から
わたしをみている
ひたすらに世話を焼くこと
野蛮なまでに
それでいて越権は許されない
どこか紳士の世界
健常者と障害者のはざまで
ことばを沈黙を翻訳し続けていた

そうだ
おはよう
手の甲をわたしに向けて手を振る自閉症の人に
「ほらこっちやで」

手のひらはこっちやで
手のひらはこっちやで

ああつながった

合わせた
専門家はあわせられないっていうけどね


おきあがるまでの時間

手のひらはこっち
こっちって どっち?

それは外へ
自分から外へ
外に向ける事で自分のものになる
さようなら こんにちは おはよう

布団をめくる
おきあがれない
それでも立ち上がる

「はい 起こしますよー
1,2,3」

そうだ 起こしますよーと言いながら
自分の背骨をおしあげて
腰をすえて
立ち上がる自分がいた

手のひらはこっちやで
ほら やっと こっちに振ってくれた
そんな体験が確かにあったのだ


玄関で
布団で


自由詩 手のひら Copyright 石川和広 2006-02-24 19:32:18縦
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