ハーモニカ
ナオ

こわれてもいいよって
ヒツジがさみしく笑った
夕方の風にのせて
少しなぐさめてあげたい

鉄棒の影が背中に届くと
校庭は静かに冷えていく
ハーモニカを吹く少女よ
クローバーは伏し目がちにゆれて
放課後の時は
音楽室の肖像をにらんでいる

もう帰りなさい
出て行きなさいって
先生
ピアノはまだ終わっていないよ

汚れた犬の瞳は
乾ききっていない
歌はいつまでも
歌われないまま

ハーモニカの音は
くちびるをほしがる
ほしがる闇は
嫌がっていても
消えてしまっても

雲の切れ目の
残光は歩みに変わり
ヒツジは次々と
送り出されてゆく

たなびく裾を
おさえて
胸の動悸が
今も

おまえもおいで
ハーモニカをおいて
駆け出す長い影

夜は追いつけない
共鳴の境界線
どこにも行けないでいる
いくつもの雲の行方


自由詩 ハーモニカ Copyright ナオ 2006-02-23 18:12:11
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