ポキモン(ユンゲラーにて)
腰抜け若鶏

彼の名前はユンゲラー田中。18歳。
彼には誰にも言えない秘密があった。

彼の家系は正義の覆面レスラー「ハヤブサ」を親子三代にわたって務めてきた。
そしてユンゲラー田中の18歳の誕生日、つい先日のことだった。
彼の父、ユンゲラー中島からハヤブサの覆面を手渡され、自分の崇高なる使命を知った。

しかし彼には大きな悩みがあった。
彼にはバレンタインの日に告白された1つ下の彼女がいたのだ。
顔は普通だが、その少しロリっぽいキャラが気に入っていた。
付き合い始めて1ヶ月、今が一番いいところなのだ。

ハヤブサと可愛い後輩、一体どちらを選べばいい?
どう考えてもすぐに答えが出そうな選択を、ユンゲラー田中はマジで死ぬほど悩んだ。
朝昼夕寝る前、4回に分けて考えたのがいけなかったのだ。
でも何だかんだ言って週末はちゃっかりその子とデートしていた。
けれども、彼女の部屋に招待されたことはまだ一度もない。

そして遂に彼は決意した。
強引に迫って彼女との関係が気まずくなった次の日だった。
すべてを捨てて、旅に出よう。もう一度、自分とは一体何者なのかを知るために。
彼は荷物をまとめると置き手紙を残して、誰に告げることもなく明け方こっそり家を出た。

大事な後継者を失ったユンゲラー一家は大慌て。
一家総出で小さな庭の草の根をかき分ける程度にユンゲラー田中を捜してみた。
しかし結局見つからず、警察に捜索願いを出す程のことでもないので、
とうとう彼を惑わせた後輩の家にみんなで押しかけることになった。

父、ユンゲラー中島と祖父、ユンゲラー伊藤にネチネチと嫌味を言われ続けた後輩の両親は、
二人に泣きながら謝罪した。少し鼻水も垂れていたのでとても見れた顔ではなかった。
ついに慰謝料を払うから堪忍してくださいと言い出し、二人はそれを聞いてにんまりと笑った。
しかしその時、肝っ玉の座った後輩は二人の前でこう宣言した。
「だったら私、やります!ユンゲラー田中君の代わりに!正義の覆面レスラー」

かくして、その翌日から彼女は正義の覆面レスラー「ユリアン」となり、
プロレス界のマスコット的存在として多くのプロレスマニアに崇められ、写真集も出版された。
またそれなりにトークもいける口だったので主にバラエティー方面のタレントしても活躍し、
潰れかけたプロレス界の希望の星としてマスコミ各社を賑わしましたとさ。


自由詩 ポキモン(ユンゲラーにて) Copyright 腰抜け若鶏 2006-02-23 07:39:04
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