旧式
たもつ



無駄口を叩いている君の側で
僕は電卓を叩いている
端数がうまく積み上がらない
けれど僕の電卓は旧式だから
いつも君の指を叩こうとしてしまう

時計は見たこともない時計回り
僕は長針をかじり
君は短針をかじろうとする
秒針は無いので
それはそのまま
けれど時計は旧式だから
いつも僕らを時間と間違えてしまう


  野原の真ん中近くで名義の無い自転車の車輪は曲がった

  炎天下、ピアノはさぶいぼだらけのピアニカになった

  ヘビのぬいぐるみはある日唐突にお母さんと呼ばれた

  でも実は悲しいお父さんだった

  旧式に過ごされる毎日の中で
  君が失い、僕が忘れてしまった
  いくつかのことと
  すべてのこと


僕らの

 鶏肉は旧式だから
 香ばしい香りをたてて発情してしまう

 椅子は旧式だから
 背もたれと脚はたくさんの人型の型になってしまう

 窓という窓は旧式だから
 窓の外と外はどこまでも繋がっている

 缶切りは旧式だから
 切断面は虹色の天気予報士となる

 さて、その天気予報士といえば旧式だから
 何も予報することなく海底から浮上してこない


ねえ、僕は誰よりも嘘をつくのが得意な子供だった
でもやっぱり旧式だから
まだ生まれてこない君を思い出してしまう




自由詩 旧式 Copyright たもつ 2006-02-22 21:10:01
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