土 手
プテラノドン

曇り空の一日に
土手を歩く僕は
ふいに 笑いかけて転んだ
鳥が一斉に飛び立った

僕は誰もいないマウンドに立っている
フェンスに向かって詩を投げる
一行きりの詩を投げる
フェンスの向こうで
鳥が一斉に飛び立った

焼き残った―すすきの原っぱ
古い壁のような―灰色の空 
羽音のない―鳥たち 
そのどれよりも
砂利道は涸れている
奪われるはずの足跡さえ 
風もないので すじをのこして
それっきりだった 
冬の形象は
何処へ還るでもなかった

六本目の指を用意しよう と
僕はひらめく
ささやかながら
捧げられるように と
僕は考える

粗大ゴミの山に埋もれている
ストーブやら冷蔵庫を
真っ暗なモニターに貼りついた 
見おぼえのない 小さな指紋を

あるいは 棺を抱いて歩く彼等のように
失った悲しみがあるかもしれない
そこに いつか忘れてしまうだろう
そこに署名するように僕も触れる

だがどうだろう―
僕はなんら失っていないのだから
悲しいわけなかった
ただ 孤独を慰めていただけだった

―一方で、テトラポッドにはさまっていた
ビニール袋を引き上げると匿名の「私」が、
明細書をドイツ語マニュアルと見比べながら
読んでいる。明細書には所々、赤鉛筆で線が
引かれている。僕はそれについて「私」に質
問されるよりも先に「ナイン!(いいえ)」と
答えた。

鳥が一斉に飛び立ったので
曇天は肩をすくめる―
やさしい 日ざしがあふれだす
こんなのって? 僕は尋ねるように
かすかに―笑った


自由詩 土 手 Copyright プテラノドン 2006-02-22 12:48:00
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